中国商標の無効審判:中国で第三者に自社の商標を勝手に取られたらどうするか?

中国商標の無効審判:中国で第三者に自社の商標を勝手に取られたらどうするか?

 先日、弊所のクライアント様から中国へのビジネス展開を検討中に、全く知らない第三者(中国人)が勝手に取った商標権が発見され、中国ビジネスを全面的にストップしたが、今後どのように対処したら良いかとのご相談を受けました。
 また、クライアント様は中国商標権の無効審判を検討したいということでした。しかしながら、中国で商標権を無効にすることはたとえ悪意のある第三者による出願だとしても簡単ではありません。
 その理由を以下にまとめておきます。

(1)中国商標法第32条に基づいて、係争商標出願人が、他人によって先に使用されかつ一定の影響力を有する商標を、不正な手段により駆け抜け登録したことを主張するには、大量な証拠を提出して、日本企業の商標が係争商標の出願日前に既に中国大陸で使用され、かつ一定の影響力を持つことを証明しなければなりません。
 ここで、「先に使用されかつ一定の影響力を有する」とは、中国で先に使用されており、特定の範囲内の関連公衆に知られていることを指します。

 商標が一定の影響力を有することを証明できる証拠について、中国商標審査基準には以下のように挙げられています。
 ①当該商標を最初に使用した時期及び使用継続状況に関する資料
 ②当該商標を使用する商品/サービスの契約、領収書、貨物引替証、銀行入金証憑、輸出入証憑等
 ③当該商標を使用する商品/サービスの販売区域の範囲、販売量、市場シェアなどに関する資料
 ④当該商標にかかわる放送、映画、テレビ、新聞、定期刊行物、ネットワーク、戸外等のメディアの広告、メディアの評論及びその他の宣伝活動資料 
 ⑤当該商標を使用する商品/サービスについて参加した展示会、博覧会に関する資料
 ⑥当該商標の受賞状況 
 ⑦当該商標に一定の影響力があることを証明することができるその他の資料

 まず最初に言っておきたいのは、無効審判の請求時にこのような資料を作成する必要があり、非常に多くの費用と時間を要します。
 次に、日本の企業様の商標権は中国大陸において使用されていないことが多く、普通に考えると、特定の範囲内の中国での関連公衆に知られていることを証明するに充分ではないケースがほとんどであり、中国審査官に日本企業の商標が既に中国大陸で一定の影響力を持つことを認めてもらうことは非常に難しいです。
 従って、一般論としては(極まれに例外はあるかもしれませんが)、たとえ悪意の出願であるとしても、商標法第32条に基づく無効宣告審判で勝つ可能性は高くないです。

(2)その他の手法として、中国での商標審査基準に基づいて、他人が不正な手段により商標を登録したことを主張する手法があります。具体的には、①係争商標の出願人が一貫して他人の商標を駆け抜け出願する行為を有するか、②係争商標の出願人が大量の商標を出願登録して、明らかに使用の意図に欠るか、③係争商標の出願人と関連する企業または個人が悪意的な行為または不誠実な行為を有するかなどに関する証拠を提出する手段があります。
 例えば、勝手に中国商標の出願をした第三者が、日本企業と関連の有るものとの証明(例えば、中国でのサプライヤー企業であったなど)できるケース、中国での出願人が多くの同様な不正出願を繰り返している、などの証明です。
 また、日本企業が中国においてディーラーや代理店などを有する場合、中国のパートナーに係争商標の出願人を知っているか、取引関係があるかを問い合わせることも考えられます。このような方法では、より早く証拠を入手でき、審査官に認められる可能性も高くなります。

 しかしながら、この場合でも、証明するためには多くの書類を準備する必要があり、サプライヤーであることの専門の調査会社への依頼や証明書類の作成とその高額な費用、現地代理人に対する高額のオンライン調査費用などが発生する可能性があります。

(3)無効審判で無効にできず手段が他にないという最悪の場合には、中国の商標権を買い取るということも検討しなくてはいけません。
 しかしながら、この場合は足元を見られて金額を無限に引き上げられるなど、非常に大きなリスクを伴います。

(4)対応策として
 では、専門家として対応策はなにかと聞かれれば、将来、中国でのビジネス展開が少しでもあるかもしれない場合には、先手を打って直ぐにでも商標出願して権利化するのがベストというしかありません。
 上述のように、中国においては、第三者に勝手に登録された商標権を無効にするのは本当に困難ですが(費用も時間も膨大に要します)、先手を打って自社商標を中国で権利化しておけばその可能性を全て排除できるからです。
 中国ビジネスでは成功すれば大きな利益を得ることができる反面、このような中国独自の日本の常識とは異なる仕組みがあり、従って、海外ビジネスを展開している日本企業様は中国商標出願を軽視せず、早め早めに中国商標出願をすることをお勧めさせて頂きます(弊所では格安の中国商標出願サービスを提供しておりますので機会がございましたら是非ご活用下さい)。

 弊所は、日本特許・意匠・商標のみではなく、国際特許・意匠・商標出願を非常に得意としておりますので、そのようなお客様がおられたら是非遠慮なくお声かけ下さい。相談は無料です。お待ちしております。

 蓑和田国際特許事務所 蓑和田 登

2019年11月04日